かわぐちこ
河口湖

冒頭文

段ばしごがギチギチ音がする。まもなくふすまがあく。茶盆をふすまの片辺(かたべ)へおいて、すこぶるていねいにおじぎをした女は宿の娘らしい。霜枯れのしずかなこのごろ、空もしぐれもようで湖水の水はいよいよおちついて見える。しばらく客というもののなかったような宿のさびしさ。 娘は茶をついで予(よ)にすすめる。年は二十(はたち)ばかりと見えた。紅蓮(ぐれん)の花びらをとかして彩色したように顔が美し

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 野菊の墓他六篇
  • 新学社文庫、新学社
  • 1968(昭和43)年6月15日