かいいき
海異記

冒頭文

一 砂山を細く開いた、両方の裾(すそ)が向いあって、あたかも二頭の恐しき獣の踞(うずくま)ったような、もうちっとで荒海へ出ようとする、路(みち)の傍(かたえ)に、崖(がけ)に添うて、一軒漁師の小家(こいえ)がある。 崖はそもそも波というものの世を打ちはじめた昔から、がッきと鉄(くろがね)の楯(たて)を支(つ)いて、幾億尋(ひろ)とも限り知られぬ、潮(うしお)の陣を防ぎ止めて、崩れか

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 泉鏡花集成4
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1995(平成7)年10月24日