せいしょのけんい
『聖書』の権威

冒頭文

私には口はばったい云い分かも知れませんが聖書と云う外はありません。聖書が私を最も感動せしめたのは矢張り私の青年時代であったと思います。人には性の要求と生の疑問とに、圧倒される荷を負わされる青年と云う時期があります。私の心の中では聖書と性慾とが激しい争闘をしました。芸術的の衝動は性欲に加担し、道義的の衝動は聖書に加担しました。私の熱情はその間を如何(ど)う調和すべきかを知りませんでした。而して悩みま

文字遣い

新字新仮名

初出

「新潮」1916(大正5)年10月号

底本

  • 日本の名随筆 別巻100 聖書
  • 作品社
  • 1999(平成11)年6月25日