ついおく
追憶

冒頭文

一 埃 僕の記憶の始まりは数え年の四つの時のことである。と言ってもたいした記憶ではない。ただ広さんという大工が一人、梯子(はしご)か何かに乗ったまま玄能で天井を叩(たた)いている、天井からはぱっぱっと埃(ほこり)が出る——そんな光景を覚えているのである。 これは江戸の昔から祖父や父の住んでいた古家を毀(こわ)した時のことである。僕は数え年の四つの秋、新しい家に住むようになった。した

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸春秋」1926(大正15)年4月~1927(昭和2)年2月

底本

  • 河童・玄鶴山房
  • 角川文庫、角川書店
  • 1969(昭和44)年11月30日改版初版