きもの
着物

冒頭文

こんな夢を見た。 何でも料理屋か何からしい。広い座敷に一ぱいに大ぜい人が坐つてゐる。それが皆思ひ思ひに洋服や和服を着用してゐる。 着用してゐるばかりぢやない。互に他人の着物を眺めては、勝手な品評を試みてゐる。 「君のフロックは旧式だね。自然主義時代の遺物ぢやないか。」 「その結城(ゆふき)は傑作だよ。何とも云へない人間味がある。」 「何だい。君の御召しの羽織は、全然心

文字遣い

新字旧仮名

初出

「点心」1922(大正11)年5月

底本

  • 芥川龍之介全集 第九巻
  • 岩波書店
  • 1996(平成8)年7月8日発行