こんぱるかいの「すみだがわ」
金春会の「隅田川」

冒頭文

僕は或早春の夜、富士見町の細川侯の舞台へ金春会(こんぱるかい)の能を見に出かけた。と云ふよりも寧(むし)ろ桜間金太郎氏の「隅田川」を見に出かけたのである。 僕の桟敷(さじき)へ通つたのは「花筐(はながたみ)」か何かの済んだ後、「隅田川」の始まらない前のことである。僕は如何なる芝居を見ても、土間桟敷に満ちた看客よりも面白い芝居に出会つたことはない。尤(もつと)も僕の友達の書いた、新らしい芝

文字遣い

新字旧仮名

初出

「女性」1924(大正13)年3月

底本

  • 芥川龍之介全集 第十一巻
  • 岩波書店
  • 1996(平成8)年9月9日発行