けっこんなんならびにれんあいなん
結婚難並びに恋愛難

冒頭文

あなたがたはゼライイドの話を知つてゐますか? ゼライイドは美しい王女です。何でも文献に徴すれば、足は蝋石の如く、腿は象牙の如く、臍は真珠貝の孕める真珠の如く、腹は雪花石膏の甕の如く、乳房は百合の花束の如く、頸(うなじ)は白鳩の如く、髪は香草の如く、目は宮殿の池の如く、鼻は城門の櫓の如くだつたと言ふのですから、万人に一人もない美人だつたのでせう。このゼライイドも年ごろになるにつけ、誰か然るべき相手を

文字遣い

新字旧仮名

初出

「婦人の国」1925(大正14)年7月

底本

  • 芥川龍之介全集 第十二巻
  • 岩波書店
  • 1996(平成8)年10月8日発行