しもよ
霜夜

冒頭文

霜夜の記憶の一つ。 いつものやうに机に向つてゐると、いつか十二時を打つ音がする。十二時には必ず寝ることにしてゐる。今夜もまづ本を閉ぢ、それからあした坐り次第、直に仕事にかかれるやうに机の上を片づける。片づけると云つても大したことはない。原稿用紙と入用の書物とを一まとめに重ねるばかりである。最後に火鉢の火の始末をする。はんねらの瓶に鉄瓶の湯をつぎ、その中へ火を一つづつ入れる。火は見る見る黒

文字遣い

新字旧仮名

初出

「女性」1924(大正13)年2月

底本

  • 芥川龍之介全集 第十巻
  • 岩波書店
  • 1996(平成8)年8月8日発行