みっつのまど
三つの窓

冒頭文

1 鼠 一等戦闘艦××の横須賀(よこすか)軍港へはいったのは六月にはいったばかりだった。軍港を囲んだ山々はどれも皆雨のために煙っていた。元来軍艦は碇泊(ていはく)したが最後、鼠(ねずみ)の殖(ふ)えなかったと云うためしはない。——××もまた同じことだった。長雨(ながあめ)の中に旗を垂(た)らした二万噸(トン)の××の甲板(かんぱん)の下にも鼠はいつか手箱だの衣嚢(いのう)だのにもつきはじめた

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1927(昭和2)年7月

底本

  • 芥川龍之介全集6
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1987(昭和62)年3月24日