かみきりむし
髪切虫

冒頭文

桐(きり)の青葉が蝙蝠(こうもり)色に重なり合って、その中の一枚か二枚かが時折り、あるかないかの夕風にヒラリヒラリと踊っている。 うるんだ宵星の二つ三つが、大きく大きくその上にまばたき初めると、遠く近くの魂がヒッソリと静まり返って、世界中が何となく生あたたかい悪魔のタメ息じみて来る。 その桐畠の片隅の一番低い葉蔭に在る、太い枝の岐(わか)れ目に、昼間から一匹の髪切虫(かみきりむ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 夢野久作全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1992(平成4)年8月24日