しらぎく
白菊

冒頭文

脱獄囚の虎蔵(とらぞう)は、深夜の街道の中央(まんなか)に立ち悚(すく)んだ。 黒血だらけの引っ掻き傷と、泥と、ホコリに塗(ま)みれた素跣足(すはだし)の上に、背縫(せぬい)の開いた囚人服を引っかけて、太い、新しい荒縄をグルグルと胸の上まで巻き立てている彼の姿を見たら、大抵の者が震え上がったであろう。毬栗頭(いがぐりあたま)を包んだ破れ手拭(てぬぐい)の上には、冴(さ)え返った晩秋の星座

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 夢野久作全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1992(平成4)年8月24日