わかばのあめ
若葉の雨

冒頭文

野も、山も、青葉若葉となりました。この頃は——とりわけて今年はよく雨が降るやうです。雨といつてもこの頃のは、草木の新芽を濡らす春さきの雨や、もつと遅れて来る梅雨季(つゆどき)の雨に比べて、また変つた味ひがあります。春さきの雨はつめたい。また梅雨季の雨は憂鬱にすぎますが、その間にはさまれた晩春の雨は、明るさと、快活さと、また暖かさとに充ち溢れて、銀のやうにかがやいてゐます。春さきの雨は無言のまま濡れ

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆43 雨
  • 作品社
  • 1986(昭和61)年5月25日