はんしちとりものちょう 32 うみぼうず |
半七捕物帳 32 海坊主 |
冒頭文
一 「残念、残念。あなたは運がわるい。ゆうべ来ると大変に御馳走があったんですよ」と、半七老人は笑った。 それは四月なかばのうららかに晴れた日であった。 「まったく残念でした。どうしてそんなに御馳走があったんです」と、わたしも笑いながら訊(き)いた。 「と云って、おどかしただけで、実はさんざんの体(てい)で引き揚げて来たんですよ。浅蜊(あさり)ッ貝を小一升と、木葉(こっぱ)のような鰈
文字遣い
新字新仮名
初出
底本
- 時代推理小説 半七捕物帳(三)
- 光文社時代小説文庫、光文社
- 1986(昭和61)年5月20日