うまれいずるなやみ
生まれいずる悩み

冒頭文

一 私は自分の仕事を神聖なものにしようとしていた。ねじ曲がろうとする自分の心をひっぱたいて、できるだけ伸び伸びしたまっすぐな明るい世界に出て、そこに自分の芸術の宮殿を築き上げようともがいていた。それは私にとってどれほど喜ばしい事だったろう。と同時にどれほど苦しい事だったろう。私の心の奥底には確かに——すべての人の心の奥底にあるのと同様な——火が燃えてはいたけれども、その火を燻(いぶ)らそ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 小さき者へ・生まれいずる悩み
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1940(昭和15)年3月26日、1962(昭和37)年10月16日第26刷改版