一 治承(じしょう)二年九月二十三日のことである。 もし、それが都であったならば、秋が更(た)けて、変りやすい晩秋の空に、北山時雨(しぐれ)が、折々襲ってくる時であるが、薩摩潟(さつまがた)の沖遥かな鬼界(きかい)ヶ島(しま)では、まだ秋の初めででもあるように暖かだった。 三人の流人(るにん)たちは、海を見下ろす砂丘(さきゅう)の上で、日向(ひなた)ぼっこをしていた。ぽか