にっこうしょうひん
日光小品

冒頭文

大谷川 馬返しをすぎて少し行くと大谷川の見える所へ出た。落葉に埋もれた石の上に腰をおろして川を見る。川はずうっと下の谷底を流れているので幅がやっと五、六尺に見える。川をはさんだ山は紅葉と黄葉とにすきまなくおおわれて、その間をほとんど純粋に近い藍色(あいいろ)の水が白い泡(あわ)を噴(ふ)いて流れてゆく。 そうしてその紅葉と黄葉との間をもれてくる光がなんとも言えない暖かさをもらして、

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 羅生門・鼻・芋粥
  • 角川文庫、角川書店
  • 1950(昭和25)年10月20日