さんげ
散華

冒頭文

玉砕(ぎょくさい)という題にするつもりで原稿用紙に、玉砕と書いてみたが、それはあまりに美しい言葉で、私の下手(へた)な小説の題などには、もったいない気がして来て、玉砕の文字を消し、題を散華(さんげ)と改めた。 ことし、私は二人の友人と別れた。早春に三井君が死んだ。それから五月に三田君が、北方の孤島で玉砕した。三井君も、三田君も、まだ二十六、七歳くらいであった筈(はず)である。

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 太宰治全集6
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(平成元)年2月28日