りゅうたんだん
竜潭譚

冒頭文

躑躅(つつじ)か丘(おか) 日は午(ご)なり。あらら木(ぎ)のたらたら坂に樹(き)の蔭もなし。寺の門(もん)、植木屋の庭、花屋の店など、坂下を挟(さしはさ)みて町の入口にはあたれど、のぼるに従ひて、ただ畑(はた)ばかりとなれり。番小屋めきたるもの小だかき処(ところ)に見ゆ。谷には菜(な)の花(はな)残りたり。路(みち)の右左、躑躅(つつじ)の花の紅(くれない)なるが、見渡す方(かた)、見返る

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 鏡花短篇集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1987(昭和62)年9月16日