らんせい
乱世

冒頭文

一 戊辰(ぼしん)正月、鳥羽伏見の戦で、幕軍が敗れたという知らせが、初めて桑名藩に達したのは、今日限(きょうぎ)りで松飾りが取れようという、七日の午後であった。 同心の宇多熊太郎という男が、戦場から道を迷って、笠置を越え、伊賀街道を故郷へと馳せ帰って来たのである。 一藩は、愕然とした。愕然としながらも、みんな爪先立てて後の知らせを待っていた。 公用方の築麻市左衛

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 菊池寛 短篇と戯曲
  • 文芸春秋
  • 1988(昭和63)年3月25日