はんしちとりものちょう 34 らいじゅうとへび |
半七捕物帳 34 雷獣と蛇 |
冒頭文
一 八月はじめの朝、わたしが赤坂へたずねてゆくと、半七老人は縁側に薄縁(うすべり)をしいて、新聞を読んでいた。 狭い庭にはゆうべの雨のあとが乾かないで、白と薄むらさきと柿色とをまぜ栽(う)えにした朝顔ふた鉢と、まだ葉の伸びない雁来紅(はげいとう)の一と鉢とが、つい鼻さきに生き生きと美しく湿(ぬ)れていた。 「ゆうべは強い雷でしたね。あなたは雷がお嫌いだというからお察し申してい
文字遣い
新字新仮名
初出
底本
- 時代推理小説 半七捕物帳(三)
- 光文社時代小説文庫、光文社
- 1986(昭和61)年5月20日