にしんぎょじょう
鰊漁場

冒頭文

一 赤い脚絆がずり下り、右足の雪靴(つまご)の紐が切れかかっているのをなおそうともしないで、源吉はのろのろとあるいて行った。やっと目的地についたという安心も手伝って、T町の入口にさしかかった頃には、飢えと疲れとで彼はそのままそこの雪の上にぶったおれそうだった。角の駄菓子屋で塩あんの大福を五銭だけ買い、それを食いながら、街路の上にようやく人通りの増して来た町のなかへ彼は這入って行った。

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 島木健作全集 第一巻
  • 国書刊行会
  • 1976(昭和51)年2月20日