ネギひとたば
ネギ一束

冒頭文

お作が故郷を出てこの地に来てから、もう一年になる。故郷には親がいるではない、家があるではない、力になる親類とてもない、村はずれの土手下の一軒家、壁は落ち、屋根は漏(も)り、畳は半ば腐れかけて、茶の間の一間は藁(わら)が敷き詰めてある。この一軒家の主が、お作のためには、天にも地にもただ一人の親身の叔父(おじ)で、お作はここで娘になった。 ぼろぼろの襤褸(つづれ)を着て、青い鼻洟(はな)を垂

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 蒲団・一兵卒
  • 角川文庫、角川書店
  • 1969(昭和44)年10月20日改版初版