ナポレオンとたむし
ナポレオンと田虫

冒頭文

一 ナポレオン・ボナパルトの腹は、チュイレリーの観台の上で、折からの虹(にじ)と対戦するかのように張り合っていた。その剛壮な腹の頂点では、コルシカ産の瑪瑙(めのう)の釦(ボタン)が巴里(パリー)の半景を歪(ゆが)ませながら、幽(かす)かに妃(きさき)の指紋のために曇っていた。 ネー将軍はナポレオンの背後から、ルクサンブールの空にその先端を消している虹の足を眺(なが)めていた。す

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 機械・春は馬車に乗って
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1969(昭和44)年8月20日