「もん」
「紋」

冒頭文

古い木綿布で眼隠しをした猫を手籠から出すとばあさんは、 「紋よ、われゃ、どこぞで飯を貰うて食うて行け」と子供に云いきかせるように云った。 猫は、後へじり〳〵這いながら悲しそうにないた。 「性悪るせずに、人さんの余った物でも貰うて食えエ……ここらにゃ魚も有るわいや。」 猫は頻りにないて、道と田との間の溝(どぶ)に後足を踏み込みそうになった。溝の水は澱んで腐り、泥の中からは棒振

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 黒島傳治全集 第一巻
  • 筑摩書房
  • 1970(昭和45)年4月30日