かなしきちち
哀しき父

冒頭文

一 彼はまたいつとなくだん〳〵と場末へ追ひ込まれてゐた。 四月の末であつた。空にはもや〳〵と靄(もや)のやうな雲がつまつて、日光がチカ〳〵桜の青葉に降りそゝいで、雀(すゞめ)の子がヂユク〳〵啼(な)きくさつてゐた。どこかで朝から晩まで地形(ぢぎやう)ならしのヤートコセが始まつてゐた……。 彼は疲れて、青い顔をして、眼色は病んだ獣(けもの)のやうに鈍く光つてゐる。不眠の

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 現代日本文學大系 49 葛西善藏 嘉村礒多 相馬泰三 川崎長太郎 宮路嘉六 木山捷平 集
  • 筑摩書房
  • 1973(昭和48)年2月5日