いっぺいそつ
一兵卒

冒頭文

渠(かれ)は歩き出した。 銃が重い、背嚢(はいのう)が重い、脚(あし)が重い、アルミニウム製の金椀(かなわん)が腰の剣に当たってカタカタと鳴る。その音が興奮した神経をおびただしく刺戟(しげき)するので、幾度かそれを直してみたが、どうしても鳴る、カタカタと鳴る。もう厭(いや)になってしまった。 病気はほんとうに治ったのでないから、息が非常に切れる。全身には悪熱悪寒が絶えず往来する。頭

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 蒲団・一兵卒
  • 角川文庫、角川書店
  • 1969(昭和44)年10月20日改版初版