ひえい
比叡

冒頭文

結婚してから八年にもなるのに、京都へ行くというのは定雄夫妻にとって毎年の希望であった。今までにも二人は度度(たびたび)行きたかったのであるが、夫妻の仕事が喰(く)い違ったり、子供に手数がかかったりして、一家引きつれての関西行の機会はなかなか来なかった。それが京都の義兄から今年こそは父の十三回忌をやりたいから是非来るようにと云って来たので、他のことは後へ押しやっていよいよ三月下旬に京へ立った。定雄は

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 機械・春は馬車に乗って
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1969(昭和44)年8月20日