はるのとり |
春の鳥 |
冒頭文
一 今より六七年前、私はある地方に英語と数学の教師をしていたことがございます。その町に城山(しろやま)というのがあって、大木暗く茂った山で、あまり高くはないが、はなはだ風景に富んでいましたゆえ、私は散歩がてらいつもこの山に登りました。 頂上には城あとが残っています。高い石垣(いしがき)に蔦葛(つたかつら)がからみついて、それが真紅(しんく)に染まっているあんばいなど得も言われぬ趣で
文字遣い
新字新仮名
初出
底本
- 号外・少年の悲哀 他六篇
- 岩波文庫、岩波書店
- 1939(昭和14)年4月17日、1960(昭和35)年1月25日 第14刷改版