はんしちとりものちょう 31 はりこのとら
半七捕物帳 31 張子の虎

冒頭文

一 四月のはじめに、わたしは赤坂をたずねた。 「陽気も大分ぽか付いて、そろそろお花見気分になって来ましたね」と、半七老人は半分あけた障子の間からうららかに晴れた大空をみあげながら云った。「江戸時代のお花見といえば、上野、向島、飛鳥山(あすかやま)、これは今も変りがありませんが、御殿山(ごてんやま)というものはもう無くなってしまいました。昔はこの御殿山がなかなか賑わったもので、ここは上野

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 時代推理小説 半七捕物帳(三)
  • 光文社時代小説文庫、光文社
  • 1986(昭和61)年5月20日