むかし湖南(こなん)の何とやら郡邑(ぐんゆう)に、魚容という名の貧書生がいた。どういうわけか、昔から書生は貧という事にきまっているようである。この魚容君など、氏(うじ)育ち共に賤(いや)しくなく、眉目(びもく)清秀、容姿また閑雅(かんが)の趣(おもむ)きがあって、書を好むこと色を好むが如(ごと)しとは言えないまでも、とにかく幼少の頃より神妙に学に志して、これぞという道にはずれた振舞いも無かった人で