ちくせい
竹青

冒頭文

むかし湖南(こなん)の何とやら郡邑(ぐんゆう)に、魚容という名の貧書生がいた。どういうわけか、昔から書生は貧という事にきまっているようである。この魚容君など、氏(うじ)育ち共に賤(いや)しくなく、眉目(びもく)清秀、容姿また閑雅(かんが)の趣(おもむ)きがあって、書を好むこと色を好むが如(ごと)しとは言えないまでも、とにかく幼少の頃より神妙に学に志して、これぞという道にはずれた振舞いも無かった人で

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 太宰治全集6
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(平成元)年2月28日