あのじぶん
あの時分

冒頭文

さて、明治の御代(みよ)もいや栄えて、あの時分はおもしろかったなどと、学校時代の事を語り合う事のできる紳士がたくさんできました。 落ち合うごとに、いろいろの話が出ます。何度となく繰り返されます。繰り返しても繰り返しても飽くを知らぬのは、またこの懐旧談で、浮き世の波にもまれて、眉目(びもく)のどこかにか苦闘のあとを残すかたがたも、「あの時分」の話になると、われ知らず、青春の血潮が今ひとたび

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 号外・少年の悲哀 他六編
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1939(昭和14)年4月17日、1960(昭和35)年1月25日第14刷改版