その一 越(こし)の御山(みやま)永平寺にも、爽やかな初夏が来た。 冬の間、日毎(ひごと)日毎の雪作務(さむ)に雲水たちを苦しめた雪も、深い谷間からさえ、その跡を絶ってしまった。 十幾棟の大伽藍を囲んで、矗々(ちくちく)と天を摩している老杉(ろうさん)に交って、栃(とち)や欅(けやき)が薄緑の水々しい芽を吹き始めた。 山桜は、散り果ててしまったが、野生の藤が、木