あだうちさんたい
仇討三態

冒頭文

その一 越(こし)の御山(みやま)永平寺にも、爽やかな初夏が来た。 冬の間、日毎(ひごと)日毎の雪作務(さむ)に雲水たちを苦しめた雪も、深い谷間からさえ、その跡を絶ってしまった。 十幾棟の大伽藍を囲んで、矗々(ちくちく)と天を摩している老杉(ろうさん)に交って、栃(とち)や欅(けやき)が薄緑の水々しい芽を吹き始めた。 山桜は、散り果ててしまったが、野生の藤が、木

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 菊池寛 短篇と戯曲
  • 文芸春秋
  • 1988(昭和63)年3月25日