にょせん
女仙

冒頭文

昔、支那(シナ)の或(ある)田舎に書生(しょせい)が一人住んでいました。何しろ支那のことですから、桃の花の咲いた窓の下に本ばかり読んでいたのでしょう。すると、この書生の家(うち)の隣に年の若い女が一人、——それも美しい女が一人、誰(たれ)も使わずに住んでいました。書生はこの若い女を不思議に思っていたのはもちろんです。実際また彼女の身の上をはじめ、彼女が何をして暮らしているかは誰一人知るものもなかっ

文字遣い

新字新仮名

初出

不詳

底本

  • 蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1990(平成2)年8月16日