はんしちとりものちょう 16 つのくにや |
半七捕物帳 16 津の国屋 |
冒頭文
一 秋の宵であった。どこかで題目太鼓の音(ね)がきこえる。この場合、月並の鳴物だとは思いながらも、じっと耳をすまして聴いていると、やはり一種のさびしさを誘い出された。 「七偏人が百物語をしたのは、こんな晩でしょうね」と、わたしは云い出した。 「そうでしょうよ」と、半七老人は笑っていた。「あれは勿論つくり話ですけれど、百物語なんていうものは、昔はほんとうにやったもんですよ。なにしろ江戸
文字遣い
新字新仮名
初出
底本
- 時代推理小説 半七捕物帳(二)
- 光文社時代小説文庫、光文社
- 1986(昭和61)年3月20日