はんしちとりものちょう 26 おんなぎょうじゃ
半七捕物帳 26 女行者

冒頭文

一 明治三十二年の秋とおぼえている。わたしが久松町の明治座を見物にゆくと、廊下で半七老人に出逢った。 「やあ、あなたも御見物ですか」 わたしの方から声をかけると、老人も笑って会釈(えしゃく)した。そこはほんの立ち話で別れたが、それから二、三日過ぎてわたしは赤坂の家をたずねた。半七老人の劇評を聞こうと思ったからである。そのときの狂言は「天一坊(てんいちぼう)」の通しで、初代左団次の

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 時代推理小説 半七捕物帳(二)
  • 光文社時代小説文庫、光文社
  • 1986(昭和61)年3月20日