もうりせんせい
毛利先生

冒頭文

歳晩(さいばん)のある暮方、自分は友人の批評家と二人で、所謂(いわゆる)腰弁街道(こしべんかいどう)の、裸になった並樹の柳の下を、神田橋(かんだばし)の方へ歩いていた。自分たちの左右には、昔、島崎藤村(しまざきとうそん)が「もっと頭(かしら)をあげて歩け」と慷慨(こうがい)した、下級官吏らしい人々が、まだ漂(ただよ)っている黄昏(たそがれ)の光の中に、蹌踉(そうろう)たる歩みを運んで行く。期せずし

文字遣い

新字新仮名

初出

「新潮」1919(大正8)年1月

底本

  • 芥川龍之介全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1986(昭和61)年10月28日