はんしちとりものちょう 07 おくじょちゅう
半七捕物帳 07 奥女中

冒頭文

一 半月ばかりの避暑旅行を終って、わたしが東京へ帰って来たのは八月のまだ暑い盛りであった。ちっとばかりの土産物を持って半七老人の家をたずねると、老人は湯から今帰ったところだと云って、縁側の蒲莚(がまござ)のうえに大あぐらで団扇をばさばさ遣(つか)っていた。狭い庭には夕方の風が涼しく吹き込んで、隣り家の窓にはきりぎりすの声がきこえた。 「虫の中でもきりぎりすが一番江戸らしいもんですね

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 時代推理小説 半七捕物帳(一)
  • 光文社時代小説文庫、光文社
  • 1985(昭和60)年11月20日