はんしちとりものちょう 12 ねこそうどう |
半七捕物帳 12 猫騒動 |
冒頭文
一 半七老人の家には小さい三毛(みけ)猫が飼ってあった。二月のあたたかい日に、私がぶらりと訪ねてゆくと、老人は南向きの濡縁(ぬれえん)に出て、自分の膝の上にうずくまっている小さい動物の柔らかそうな背をなでていた。 「可愛らしい猫ですね」 「まだ子供ですから」と、老人は笑っていた。「鼠を捕る知恵もまだ出ないんです」 明るい白昼(まひる)の日が隣りの屋根の古い瓦を照らして、どこ
文字遣い
新字新仮名
初出
底本
- 時代推理小説 半七捕物帳(一)
- 光文社時代小説文庫、光文社
- 1985(昭和60)年11月20日