あきはさびしい
秋は淋しい

冒頭文

一時(じ)心配した時子の病氣も、だん〳〵快(い)い方に向って来ると、朝子は毎日ぼんやりした顔をして子供のベッドの裾の方に腰をおろしてゐた。そして時子の寝てゐる間は、白いカーテンの巻き上げてある窓の方を見てゐる。 窓からは、毎日のやうに釣台で運ばれて来る病人が見えた。病人の顔は黄色くなった木の葉のやうにみんな力ない。けれども空はいつも晴れてゐた。 窓のそばには、大きな桜の木が一本

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮」1918(大正7)年3月号

底本

  • 素木しづ作品集 山田昭夫編
  • 札幌・北書房
  • 1970(昭和45)年6月15日